2011年5月22日

夢の中のフェニーチェ歌劇場とヴェネツィアのグーグルストリートビュー


咳止めのために薬を飲んだ。 
もちろん薬は食後に飲むので、満腹からくる眠気と相まって、透明な無気力感が体を包む。 

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うとうとしてきた。わたしは行った事もないヴェネツィアの路地裏の太鼓橋のそばで、どっちが上流とも下流ともわからない小さな運河を眺めていた。フェニーチェ歌劇場の二番ファゴット奏者が急病となり、代打として仕事をした帰りだ。 

演目は『ナブッコ』。本当のわたしはこのオペラの「序曲」を1回演奏したことがあるだけで、この作品の全容をよく知らない。 

特に演奏で大チョンボをしたわけではないが、居場所がない感じがした。 
水がそばを流れる場所は好きだが、自分はこの町にはなじめないように思えた。 

周囲は明るいが太陽は建物に隠れて見えず、光のくる方角も不明瞭な陰影のなかに溶けはっきりしない。町は、カーテンの向こうで昼寝をしている。 

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そういえば自動車が乗り入れ出来ないヴェネツィアで、グーグル・ストリートヴューはどのようなサービスを展開しているんだろうと思ってアクセスしてみた。 

わたしの予想は乳母車タイプの “グーグル・スト・カー” が徘徊して撮影してるのでは、というものだったが、実際はユーザー投稿された写真が点々と配置されてリンクされているというものだった。 

同一の場所を撮影しているものは、それぞれがズームイン・ズームアウトやアングル違いといったものとしてまとめられ、画面上で行き来できる。 
これはこれで面白いが、残念ながらグーグルストリートヴューで疑似体験できる「歩いて移動する感じ」や「振り向いて周囲を見渡す感覚」は薄い。 

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ヴェネツィアで走行可能な「クルマ」は、乳母車、車椅子、それに子供用の自転車だけだと聞いた事がある。 

だからわたしはこの町はクルマの騒音のない町なのだろうと思っていたが、実態はモーターボートのディーゼルエンジンの音が響く町だと後で知った。 
加えて、密集する教会で鳴らされる鐘が、運河の水面にも大反響するつくりの町であるとも。 

静かな環境は水辺には少ない。探そうとしたら、大通りからはずれた場所へ引っ込まなければ。 

わたしの実家は国道14号線とJR総武線の両方から中間の位置にあり、周囲の家々は樹が多い庭のある一戸建ばかりという静かな環境だ。 
降り出した雨の葉にあたる音――小太鼓の表面に小さい豆をパラパラと撒くような音がはっきりと聞こえるほどの閑静さ。 

そういえば、実家の近くにオーボエを嗜んでいる人がいるらしい。 
夕方になると、音階や基礎練習を練習する音がよく聞こえる。 
あるときは『韃靼人の踊り』を練習している日もあったな。 

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画像はグーグルストリートビューでの様子。 
水色の点が撮影ポイント。 
右の写真の奥の建物がフェニーチェ歌劇場。