2007年12月31日

桐木村の本物の正山小種はこんなに近い武夷山の中でも知れ渡っていなかった。いや、かつてはこれしかなくて、すべての人が龍眼の香りの正山小種を知っていて、飲んでいたのだ。
 
ロンドンでアールグレイの中国茶が作られ、松で燻煙した正山小種がラプサン・スーチョンと呼ばれ、二種類の中国紅茶が残された。
 
しかし、二二代目江さんはアールグレイという中国茶を知らず、九代目のサム・トワイニング氏も一〇代目のスティーブン・トワイニング氏も、この本物の正山小種を知らない。
 
『二人の紅茶王』P233
 
母は私が困難に際しても毅然としていること、そして人生に理想を持つ事を教えた。正直と勇気、嘘をつかないというのが母の人生哲学だった。彼女は私の心にこの三つの必要不可欠なものを焼きつけた。
 
私は盲目的には母の知恵と確実な洞察力を信頼した。ほんの少しでも母の心に苦しみを与えることをするくらいなら、自分の右手を切り落としたいくらいだと思っていた。彼女は自分にとって真実、正直、善良、その他すべての象徴であった。
 
トーマス・リプトン 
 
『二人の紅茶王』P91
生産者自身が健康で幸せでなければ、消費者へ豊かなものは届けられない。
トーマスはいつもそう思っていたに違いない。
 
『二人の紅茶王』P104
 
トーマスはトーマス・リプトン。リプトン紅茶の創業者にして、大衆紅茶をイギリスのみならず、世界に定着させた世紀の商人。
両親はアイルランドの大飢饉から逃れ、イングランドのグラスゴーに移住した難民。小さな雑貨商を営み、その経営哲学は、一人息子のトーマスへ引き継がれた。
 
ほぼ無一文に近い状態からのスタート。丁稚奉公をしながらビジネスの才を延ばした天才的商人、トーマス・リプトン。
常にイギリス上流階級に対し、皮肉的な視線を送りながらも、童心を忘れず、生産者を搾取もしなかった。
 
王室の経済的な難題の解決にも陰で助力。その功績は王室にも認められ、最終的には准男爵の爵位まで得るに至る。


「本を学ぶ」と「本で学ぶ」
 
「本を学ぶ」
本を読み取り、書かれている事を理解し、そこから吸収すべきものがあるかどうかを判断する。
すなわち、得られるものは学問的内容に関する体系的知識。
 
「本で学ぶ」
その本がなぜ書かれなければならなかったのか、を問いかける。
すなわち、ある学問の系統の中で、その本が占める位置と意義について考えてみる。また、教科書を書く事は学問的な問いに挑む事でもある。
 
『系統樹思考の世界』p212 

本を学び、そして本で学ぶ。
これによって知識の獲得に始まる学問的思索の仕方、背景となる世界への道が開ける。
 
 

歴史家は、読者を感動させ納得させるためにエナルゲイア(生き生きと物語る技法)を用いつつ、自分の提示することを真実として通用させるのだ、というのが古典古代の考え方であった。
 
歴史とレトリックの近親性に依拠していた古いパラダイムを剥奪したのであった。エナルゲイアに証拠(エヴィデンス)が取って変わったのである。
 
カルロ・ギンズブルグ『歴史を逆なでに読む』より
三中信宏『系統樹思考の世界』p208