……後に解ることであるが、私が村にいた間、ピエェルは、所謂白化(アルベド)の作業に取り組んでいた。これは、錬金術の大作業中、黒化(ニグレド)と呼ばれる最初の過程に続く第二番目の過程である。この過程の作業を了え、更に赤化(ルベド)の過程に成功すれば、目指す賢者の石が得られるのである。因みに従来、白化と赤化との間には、黄化(キトリニタス)と呼ばれる今ひとつの過程が有るとされていたが、ピエェルはそれを認めなかった。これは、一方で伝統的な硫黄-水銀理論に固執していたのとは殊なり、経験に即し実証を尊ぶ、彼の今一方の態度の現れであった。
『日蝕』p65