2007年11月10日

完璧な飛行だった。しかし、完璧な行為というものは評価されない。完璧な行為はとどのつまりは当然のことに思われ、べつに勇気がなくても出来ることに見えてくる。カーティスの一機がまだ森の上を飛びまわり、有名なカーティス夫人が夫の身を案じているさなかに、おおかたの見物客は、もう彼のことを忘れていた。
 
カフカ「ブレシアの飛行機」
自由などほしくありません。出口さえあればいいのです。右であれ左であれ、どこに向けてであれですね、ただこれ一つを願いました。それが錯覚であろうともかまわない、要求がささやかならば錯覚もまたささやかなものであるはずです。どこかへ、どこかへ出ていく! 木箱の壁に押し付けられて、ひたすら膝をかかえているなど、まっぴらだ。
 
カフカ「ある学会報告」より(短編集「田舎医者」収録)
深い藍色の夜空と黄金色の星にさそわれた。何も知らずに空を見上げ、帽子を持ち上げて髪を撫でた。天空は動いても、次なる未来を教えはしない。
 
カフカ「兄弟殺し」より 短編集「田舎医者」収録